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新潟地方裁判所 昭和49年(ワ)332号 判決 1976年10月18日

原告

長井惣司

ほか一名

被告

平野政博

ほか一名

主文

一  被告平野は原告長井惣司に対し金三〇八万五、六〇〇円、同フミに対し金三〇八万五、六〇〇円およびこれらに対する昭和四八年一一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告平野との間においては原告に生じた費用の二分の一を被告平野の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告大平との間においては全部原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告長井惣司に対し、金四九八万二、〇〇〇円、原告長井フミに対し、金四九九万二、〇〇〇円およびこれらに対する昭和四八年一一月一一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら両名共)

1 原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四八年六月三〇日午前〇時二一分

(二) 場所 新潟市山木戸一、一一三番地先路上

(三) 事故車および運転者等

(1) 普通乗用自動車(新五ね一四―一〇)

右運転者 被告平野政博

(2) 自動二輪車(新五き一五―五一)

右運転者 被告大平

右同乗者 訴外長井靖樹(以下靖樹という)

(四) 態様

右場所において、被告平野が、(1)車を運転して新発田方向から新潟方向にむけて進行中後方を全く注意せず、方向指示器による合図も出さず、いきなりUターンをするためハンドルを右に切り、(1)車前部をセンターラインオーバーし反対方向車線に進入させたので、(1)車の後方から同一方向にむけて(2)車を運転していた被告大平は(1)車の突然のUターンによりこれとの衝突を回避するため右にハンドルを切つたが避けられずセンターライン付近で(1)車と衝突した。

(五) 傷害の部位・程度

靖樹は右急性硬膜外出血、右急性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折、脳挫傷の傷害を蒙り、昭和四八年一一月一一日午前七時四五分死亡した。

(六) 身分関係

原告らは靖樹の父母である。

2  帰責事由

(一) 運行供用者責任

被告平野は前記(1)車を保有し、自己のため運行の用に供していた。

(二) 不法行為責任

(1) 被告平野は前記(1)車をUターンさせるに際し、後方をよく注意しなかつた過失により本件事故を発生せしめたものである。

(2) 被告大平は前記(2)車を運転して本件現場を通過するに際し、現場約二〇〇メートル手前で前記(1)車を発見し、速度を約四〇キロメートルに落して約五〇メートル手前まで進行したが、このような場合被告大平としては前記(1)車の動静に注意し減速徐行し、警音器を吹鳴するなどして安全運転に万全の措置をとるべきであつたところ逆に前記(1)車が自己(2)車の通過を待つてくれるものと速断し、再びスピードを約六〇キロメートルに加速し、センターライン寄りに進路を変更してこれを追い越そうとしたため本件事故を発生せしめたものである。

(三) 本件事故は被告らの過失が競合して生じたものだから民法七一九条により各自連帯して損害賠償責任を負わなければならない。

3  損害

(一) 靖樹の逸失利益 九二五万六、〇〇〇円

(1) 休業損

靖樹は本件事故により、昭和四八年七月から同年一一月まで休業したのであるが、本件事故に逢わなければ就業しえたのであり、その間事故当時の収入月五万一、〇〇〇円を下らない収入を揚げえたはずであり、その間の逸失利益は二五万五、〇〇〇円である。

五万一、〇〇〇円×五=二五万五、〇〇〇円

(2) 昭和四八年一一月以後の逸失利益

靖樹は死亡当時一七歳の男子であり、本件事故に逢わなければ少なくとも四六年間は就労可能であり、その間事故当時の収入月五万一、〇〇〇円を下らない収入をあげえたはずであり、この間の生活費は右収入の五割とみるのが相当であるところ、同人はこれとは別に更に年間給与の三ケ月分の賞与を得られたはずであるから、年別ホフマン式計算により年五分の割合による中間利益を控除すると同人の死亡時における逸失利益は九〇〇万一、〇〇〇円となる。

五万一、〇〇〇×一五×〇・五=三八万二、五〇〇円

三八万二、五〇〇円×二三、五三四=九〇〇万一、〇〇〇円 (一〇〇〇円未満切り捨て)

(3) 右合計 九二五万六、〇〇〇円

二五万五、〇〇〇円+九〇〇万一、〇〇〇円=九二五万六、〇〇〇円

(二) 慰藉料 五〇〇万円

(1) 靖樹の慰藉料 四〇〇万円

靖樹が本件事故後約四ケ月以上無意識の状態で苦しみ死亡した点を考慮のうえ算定

(2) 原告ら固有の慰藉料 各五〇万円

(3) 右合計

四〇〇万円+一〇〇万円=五〇〇万円

(三) 原告らの損害(共同損害) 七〇万八、九三六円

(1) 靖樹の入院費 一四万八、〇〇六円

昭和四八年六月三〇日から同年一一月一一日まで(但し、同年九月分の治療費は被告平野が負担したので算入していない)の桑名病院に対する入院費用の支払い分

(2) 入院中の諸雑費 四万五〇〇円

三〇〇円×一三五=四万五〇〇円

(3) 入院中の付添費 二二万四三〇円

入院期間中付添人として家政婦紹介所からの紹介で家政婦が付添つた費用(紹介料も含む)。但し同年一〇月分の付添費は被告平野が負担したので右金額には算入されていない。

(4) 葬儀費用 三〇万円

(5) 右合計

一四万八、〇〇六円+四万五〇〇円+二二万四三〇円+三〇万円=七〇万八、九三六円

4  結論

前記損害額の合計は金一、四九六万四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切り捨て)であるところ自賠責から五〇〇万円の支払いがあつたのでその残金分について被告らに対し、原告長井惣司は四九八万二、〇〇〇円、同長井フミは、四九八万二、〇〇〇円およびこれらに対する昭和四八年一一月一一日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを要求する。

二  請求原因に対する認否

(被告平野)

請求原因第一項(一)ないし(三)および(五)(六)の事実は認める。

請求原因第一項(四)の事実中、後方を全く注意せず方向指示器による合図も出さずいきなりUターンしたことは否認し、被告大平が避けられなかつたかどうかは不知、その余は認める。

請求原因第二項(一)および(二)(1)(三)は争い(二)(2)は不知

請求原因第三項はすべて不知

請求原因第四項中自賠責から五〇〇万円の支払いがあつたことは認める。

(被告大平)

1 請求原因第一項の事実はすべて認める。

請求原因第二項の事実中(二)(2)については否認、(3)については争う、請求原因第三項の事実中(一)については不知、(二)については額の相当性を争う、(三)(1)(3)については不知、(三)(2)(4)については額の相当性は認める。

請求原因第四項の事実中、自賠責から五〇〇万円の支払いがあつたことは認める。

2 被告大平は靖樹とは真正共同運行供用者の関係にあり民法七〇九条の責任を負わない。

被告大平と靖樹は本件事故当時共に株式会社聚楽に勤務していたものであるが、右両名は、昭和四八年六月二九日午後一一時三〇分頃勤務を終了し新潟駅前にある右会社の宿舎に帰つた後、被告大平が、新潟市鳥屋野潟に住む本間誠への用件を思い出し、靖樹にそのことを告げたところ、靖樹は「暑くて困つていた。自分のバイクでドライブしよう。」と申し出たものである。そして靖樹は同日午後一一時四〇分頃その所有にかかる本件自動二輪の後部に被告大平を乗せて本間方に向つたものである。ところが靖樹は鳥屋野派出所近くで右自動二輪の運転を中止して「実は自分は無免許であるから運転を交代してほしい」と申し出たものである。被告大平は、従来右自動二輪を乗り回していたので当然運転免許を有していると思つていたものであるが、突然無免許である旨告げられやむなく運転を交代したものである。その後右本間方に寄り、用件を足した後帰途についたものであるが、靖樹は無免許であることを理由に被告大平に運転するよう強く求めた。そのため被告大平はやむなく帰途も運転を引受け靖樹の指示により鳥屋野から新潟バイパスを経由して国道七号線に出て新潟駅前宿舎に向つたものであるが、その途中六月三〇日午前〇時二一分頃、新潟市山木戸二一三番地路上で本件事故にあつたものであり、被告大平と靖樹は単一共同目的のために運行の用に供していたものであり真正共同運行供用者の関係にあり、真正共同運行供用者の一名が事故車に同乗中、事故車によつて被害を受けたとしてもこれを理由に他の共同運行供用者の責任を追求しえず、このことは自賠法三条による責任追求から民法七〇九条によるそれと法律構成をかえてみても同様である。

3 被告大平には過失はなかつた。

被告大平は事故現場約二〇〇メートル手前で停止している被告平野運転車両を発見するや、自車の速度を約四〇キロメートルに落して被告平野車両の動静を注意しながら、進行したが、自車が約五〇メートルに近づいても被告平野運転車両がなお停止状態を続けていることから自車の通過を待つてくれるものと判断し、進路変更した上、被告平野運転車両の前を通過しようとして加速したものであり、右被告大平の運転方法に何らの過失はなかつた。

4 被告大平の右の各主張が認められないとしても、左記の理由により過失相殺ないし損益相殺されるべきである。

(一) 同乗による過失相殺

本件事故に至る経緯は2記載の如く、単に同乗中の事故に止まらず、被告大平は亡靖樹より同人の無免許を理由に本件運転を強制されたものであるから、通常の好意同乗以上の過失相殺がなされるべきである。

(二) 原告らの監督義務違反の過失による過失相殺

亡靖樹は無免許であるにも拘らず、昭和四七年一〇月ころより本件自動二輪車を所有し、自分で乗り回していたものであるが、原告らは亡靖樹と同居し、右の事実を知りながら、これを容認して来たことは、昨今の交通事情のもとで、無免許者が車を所有して運転することが許されないものであることは自明のところであるので、親としての監督義務に違反してきたものといわねばならない。本件事故は、右原告らの監督義務違反の中から発生したものであるから、本件事故の結果と右監督義務違反の間には相当因果関係があるので、右の点についても独自の過失相殺がなさるべきである。

(三) 損益相殺

本件事故は被告大平が亡靖樹の所有車を運転し、同人を後部座席に乗せて進行中発生した事故であるが、亡靖樹は本件事故の関係においては自賠法第三条の「他人」に該当するものであるので、仮りに被告大平にも過失があるとすれば、本件事故は被告平野、被告大平両名の共同不法行為によるものであり、亡靖樹は右両名に対し、損害賠償請求権を有するので、被告平野運転車両のみならず、被告大平運転車両の自賠責保険金の請求権を有するものであるところ、亡靖樹の右自動二輪車は自賠責保険に加入手続がなされていないため、原告らは、本件自動二輪車の自賠責保険金五〇〇万円の請求ができない。訴外靖樹は自己が無免許であることから、自賠責保険加入手続をとらなかつたと思われるが、これは訴外靖樹の故意又は重大な過失による自賠責保険不加入の結果請求できなくなつた五〇〇万円については、靖樹が事前に請求を放棄したに等しいものであるから、被告大平が賠償しなければならない金額から右五〇〇万円をも控除すべきである。

5 仮りに原告らの主張が認められるとしても、原告らは、被告大平および実母に対し数回に亘り被告大平に対しては、本件事故による損害賠償の請求をしない旨意思表示をなし、その請求権を放棄している。

三  被告大平の主張に対する原告らの反論

(一)  免許を有する被告大平は、亡靖樹が無免許者であることは百も承知していたものであり、事故発生前に、仮りに亡靖樹が運転していたことがあつたとしても、それは被告大平の指示によつてなされたことは明白であり、しかも本件事故は、まさに被告大平が運転していたのであるから、右運転に対し、無免許者である亡靖樹が指示、支配し得なかつたことも明白である。また被告大平らの本件ドライブは、被告大平の提案で、しかも同人の用件を片づけるために利用され、その往復の運転は、被告大平が指示もしくは現実に行つていたものである。従つて、被告大平と亡靖樹の共同目的のために運行の用に供されたものでない。

(二)  被告大平が過失がなかつた点は否認する、被告大平が前方にいた被告平野の車の動静を注意し、減速徐行しさえすれば、大事に至らなかつたものである。被告大平は道路交通法第七〇条の安全義務に違反していることは明らかである。

(三)  被告大平の過失相殺および損益相殺の主張はすべて争う。

(四)  原告らが被告大平に対し請求権を放棄したことは全くない。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生、原告の身分関係

請求原因第一項(一)ないし(三)および(五)ないし(六)の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らの責任、被害者の過失

成立に争いのない甲第七、第八号証、乙第一、第二号証と被告大平政信本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。

1  被告平野の責任

被告平野は訴外木村芳樹から借用し、通勤や遊びに使用していた普通乗用自動車を運転し、友人の訴外五十嵐雄二を新発田市から新潟市の右五十嵐の家に送つてゆく途中本件事故を発生させたものであることが認められる。してみると、被告平野には右運転中の車に対する運行利益と運行支配があるので、自己のために運行の用に供する者であり、自動車損害賠償保険法三条の運行供用者責任を免れない。

2  被告大平の責任

被告平野は、本件事故現場で、新潟市方向から新発田市方向へ転回する際、被告平野は、道路の幅員、見透し状況、前後の他の車両、その速度等の状況を充分確認し、他の車両の運転者に対し、事故の発生を避けるための急制動、一時停止、徐行等の従前の運転方法を著るしく変更させる措置をとらせることのない様にして転回しなければならぬのに、平野車後方から新潟方向へ進行中の被告大平運転の自動二輪が自車後方約四五メートルに接近中であるのを認めたにも拘らず、被告大平車の進行速度等に充分な注意を払わず、それだけの距離があれば、被告大平車が来る前にその前方を転回できると漫然と速断し、約一〇キロメートルの速度で転回を始めた過失により約六〇キロメートル位の速度で急速接近して来た被告大平車に驚き、急制動の措置をとつたがおよばず、道路中央部附近で衝突したものであり、他方被告大平も本件事故現場を通過するに際し右現場から約一五〇メートル手前で転回しようとしていた被告平野車を発見し、速度を約四〇キロメートルに落し約五〇メートル手前まで進行したところ、被告平野車が転回の合図をして、進路をセンターラインよりに変更するのを気がついた。かかる場合、被告大平としては前方の被告平野車の動静に充分注視し、警音器を吹鳴し、かつ、安全な速度で進行する注意義務があるのに、これを怠り、被告平野車が転回をやめて停車したように見えたので、自車の通過を待つてくれているものと速断し、速度を約六〇キロメートルに加速してセンターライン寄りに進路を変更し、被告平野車の前方を通過しようとしたところ、約一米位に接近したところで、転回中であることに気がついたが、加速中でもあり、避け切れず、そのまま自車前部を被告平野車の右前側部と激突したものであり、本件衝突事故は、被告平野と被告大平両名の過失が競合して発生したものと認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。してみると、被告大平には、共同不法行為者としての責任があるものと認めざるを得ないところである。

なお、被告大平は、靖樹と真正共同運行供用者であるので、原告らは被告大平に対し民法七〇九条の不法行為責任も追求しえない旨主張するが、自動車損害賠償責任保険法三条の運行供用者の責任と民法七〇九条の責任とは立法の趣旨を異にするのであつて、たとえ、運行供用者責任を追求しえなくとも、民法七〇九条の責任を追求しえると解するのが相当であるので、被告大平の右主張は採用しないが、後記認定の過失相殺の点において、考慮するのが相当と思料する。

3  亡靖樹側の過失

成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第一、第二号証原告長井惣司、被告大平政信の各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  自動二輪車に乗るに際しては乗車する人の安全をはかるために保安帽を着用して乗車し、自ら身体の安全をはかることが義務ずけられているのに靖樹はこれを着用しておらず、本件事故による靖樹の傷害の部位、程度からすると、右の不着用が傷害の結果を重大にしたものであると認められる。

(二)  原告らは、未成年者である亡靖樹が自動二輪車の免許を受けていないのに、車を保有していたことを昭和四七年一〇月ころに知り、且つ容認していたことが認められ、かかる場合親権者として、右靖樹の年齢等から、特に自動二輪車を運転しないように特段の注意監督する義務があるのに、同人が通勤や遊びに使用することを知りながら、右の行為を容認して来たことが認められる。右認定に反する原告長井惣司の供述中、右認定に反する部分は採用しない。してみると原告らには、親としての監督義務違反のあつたことは明らかであり、本件自動二輪車の使用が、直接には、原告らの居住住居から持ち出し使用されたものでなく、通勤先から持ち出されたものであることが認められるが本件事故の結果と、右監督義務違反との間には、相当因果関係があると認めるを相当とする。

(三)  被告大平が運転するに至つた経緯は被告大平と右靖樹が仕事を終え宿舎に帰つたのち、午後一一時四〇分ころ被告大平が右靖樹に対し、暑いからドライブに行こうと誘つたところ、右靖樹は自分が無免許であるにもかかわらず、自己所有の自動二輪車が、宿舎にあるからそれに乗つて出かけようといい出し、当所は靖樹が運転し、ドライブに出たのであるが、その途中、鳥屋野交番の手前で右靖樹から無免許なので運転を交替して欲しいと言われ、被告大平が本件事故に至るまで運転することになつたことが認められる。

右認定に反する証拠はない。してみると、亡靖樹の右の行為は、損害の算定にあたり相当程度の考慮が払わねばならないものと考えるを相当とする。

(四)  亡靖樹が、同人所有の本件自動二輪車について強制保険に加入手続をとつていなかつたことは当事者間に争がないところ、被告大平は亡靖樹が無免許者であることを知つていたのであるから、右の保険加入手続が取られていない危険のあることを十分に予測しえたものと推認され、その車を自己が運転し、本件事故をおこしたものであるから、かかる場合保険手続を取らなかつたことに対する原告らの過失を追求しえないと解するのが相当である。

(五)  以上の過失のうち被告平野に対する関係では(一)、(二)について各一〇%の過失相殺を、被告大平に対する関係では、(一)、(二)について各一〇%、(三)について五〇%の過失相殺をするのが相当であると考える。

三  損害

1  靖樹の逸失利益

成立に争いのない甲第五、第六号証および甲第一〇号証、原告長井惣司本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  休業損

亡靖樹は、本件事故により、昭和四八年六月三〇日から同年一一月一〇日まで休業し、本件事故に逢わなければその間就労しえたのでありその間平均月五万一、〇〇〇円の収入をあげえたことが認められるのでその間の逸失利益は二五万五、〇〇〇円となる。

(二)  昭和四八年一一月以後の逸失利益

更に靖樹は死亡当時一七歳の健康な男子であり、本件事故に逢わなければ少なくとも四六年間は就労可能であり、その間一ケ月平均五万一、〇〇〇円の給与のほか年間給与の三ケ月分の賞与を得られることが推認され、生活費は収入の五割と認めるのが相当であるから同人の死亡による逸失利益を年別ホフマン式計算により年五分の割合による中間利益を控除すると同人の死亡時の逸失利益は九〇〇万一、〇〇〇円、(一、〇〇〇円未満切り捨て)となる(他にこの認定を左右するに足りる証拠はない)。

五万一、〇〇〇円×一五×〇・五=三八万二、五〇〇円

三八万二、五〇〇円×二三・五三四=九〇〇万一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切り捨て)

(三)  合計九二五万六、〇〇〇円

二五万五、〇〇〇円+九〇〇万一、〇〇〇円=九二五万六、〇〇〇円

2  慰藉料

(一)  靖樹の慰藉料

本件事故の態様、年齢、入院期間、その他諸般の事情を考慮すると慰藉料は三〇〇万円と認めるのが相当である。

(二)  原告ら固有の慰藉料

前記認定の諸般の事情を考慮のうえ各五〇万円を相当と認める。

3  原告らの損害

(一)  靖樹の入院費

成立に争いのない甲第三号証の一ないし四および原告長井惣司本人尋問の結果によると本件事故により、昭和四八年六月三〇日から同年一一月一一日まで(但し、同年九月分の治療費は被告平野が負担したので算入しない)の桑名病院に対する入院費用として、一四万八、〇〇六円を支払つたことが認められる。

(二)  入院中の諸雑費

原告長井惣司本人尋問の結果と弁論の全趣旨より一三五日間の入院中の諸雑費の支払い分として一日あたり金三〇〇円、合計四万五〇〇円の支出をなしたものと認める。

(三)  入院中の付添費

成立に争いのない甲第四号証の一ないし六および原告長井惣司本人尋問の結果によると入院期間中付添人として家政婦紹介所からの紹介で家政婦が付添つた費用(紹介料を含む)の支払い分として二二万四三〇円の損害を認める。

(四)  葬儀費用

弁論の全趣旨より葬儀費用の支払い分として三〇万円の損害を認める。

四  損害の填補

原告らが自賠責保険から五〇〇万円を受け取つたことは当事者間に争いがない。

五  原告らの請求の放棄

被告大平は、被告大平に対し原告らは本件事故による損害賠償の請求をしない旨約束した旨主張し、証人大平マサ子の証言中には右の主張に副う供述部分があるが、原告長井惣司の本人尋問の結果に照らし、直ちには措信しえず、他に右認定を左右するに足る証拠はないので、この点についての被告大平の主張は採用しない。

六  以上の次第で、被告らが原告らに対して賠償すべき損害額は、別紙計算表のとおりとなる。

よつて、被告平野は原告長井惣司および同フミに対し各金三〇八万五六〇〇円およびこれらに対する本件事故後であること明らかな昭和四八年一一月一一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九〇条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山中紀行)

別紙計算表

全損害=

九二五万六、〇〇〇円+三〇〇万円+一〇〇万円+一四万八、〇〇〇円+四万円+二二万円+三〇万円=一三九六万四、〇〇〇円

過失相殺

大平 一三九六万四、〇〇〇円×〇・七=九七七万四、八〇〇円

平野 一三九六万四、〇〇〇円×〇・二=二七九万二、八〇〇円

過失相殺後の損害額

大平 一三九六万四、〇〇〇円-九七七万四、八〇〇円=四一八万九、二〇〇円

平野 一三九六万四、〇〇〇円-二七九万二、八〇〇円=一一一七万一、二〇〇円

損害の填補(五〇〇万円)

(結論)

大平 四一八万九、二〇〇円-五〇〇万円=〇

平野 一一一七万一、二〇〇円-五〇〇万円=六一七万一、二〇〇円

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